みどころ

みどころ みどころ

現在のベルギーとその周辺地域では、中世末期に発達した写実的描写のもと、独自の幻想的な絵画が生まれました。ブリューゲルの奇妙な生物、アンソールの仮面や髑髏、マグリットの不思議な風景など、そこにはどこか共通する奇想・幻想の世界が広がっています。

本展は15、6世紀を代表するボスやブリューゲルの流れをくむ作品から、象徴主義、シュルレアリスムの作家を経て、現代のヤン・ファーブルにいたるまで、約130点の作品を通して、500年にわたる「奇想」の系譜の存在を探ります。

15-17世紀のフランドル美術 15-17世紀のフランドル美術

「奇想」のルーツともいうべきボスやブリューゲルが描いたハイブリッドな悪魔たちは、
ルーベンスにより理想的な体をまとい、本物と感じさせる迫真性に満ちていました。
本章ではボス派の画家やブリューゲル、ルーベンスらの作品をご紹介。
  • 《トゥヌグダルスの幻視》ヒエロニムス・ボス工房
    日本初公開!異界めぐりの逸話を
    描いたボス工房の作品

    「トゥヌグダルスの幻視」とは、アイルランドの騎士が語ったとされる逸話です。主人公の騎士トゥヌグダルスは、3日間の仮死状態に陥っている間に天使によって天国と地獄に導かれ、そこで恐ろしい懲罰を目にし、目覚めた後に悔悛します。本作は、左下に主人公と天使、さらには大罪とそれに関連づけられた懲罰が各所に描かれています。

    《トゥヌグダルスの幻視》 1490―1500年頃 油彩、板
    ヒエロニムス・ボス工房
    ラサロ・ガルディアーノ財団 
    ©Fundación Lázaro Galdiano

  • 《パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑》ヤン・マンデイン
    想像力を駆使して、生み出された
    怪物たちに注目

    聖アントニウスとは砂漠での修行で知られるキリスト教の聖人で、当時「聖アントニウスの火」と呼ばれた奇病の治癒の奇跡をもたらすとともに、祟りで病を引き起こすと考えられていました。画面中央の黒いマントを着て、跪く人物が聖アントニウス。彼の後ろには様々な怪物たちが列をなしています。また、画面手前にみられる卵の殻やムール貝、水に浮かぶイチゴのような果物はボスの作品から引用されています。

    《パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑》 制作年不詳 油彩、板
    ヤン・マンデイン
    ド・ヨンケール画廊 ©Galerie De Jonckheere, Geneva

  • 《大きな魚は小さな魚を食う》ピーテル・ブリューゲル
    どこかに足の生えた魚がいるよ

    ブリューゲルの作品は、鋭い観察眼でとらえられた自然や民衆の暮らしが描かれるとともにボス的な趣向ともいえる「異界・非日常」的な要素が加えられています。会場ではブリューゲル作品のアニメーション映像も展示しています。動き出す空飛ぶ魚や歩く魚、大きな魚のお腹の中から小さな魚が飛び出てくる臨場感もお楽しみください。

    《大きな魚は小さな魚を食う》 1557年 エングレーヴィング、紙
    ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]
    プランタン=モレトゥス博物館 ©Museum Plantin-Moretus/Prentenkabinet, Antwerp - UNESCO World Heritage

  • 《大食》ピーテル・ブリューゲル
    「7つの大罪」シリーズを一挙に展示

    「7つの死に至る罪(=大罪)」とは、その原因となる感情や欲望、行為を意味します。「傲慢」「嫉妬」「激怒」「怠惰」「貪欲」「大食」「邪淫」の主題が人の姿であらわされており、それぞれの作品がどの罪にあたるのか、考えながら見てみると面白いですよ。

    《大食》 1558年 エングレーヴィング、紙
    ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]
    神奈川県立近代美術館

  • 19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派、表現主義 19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派、表現主義

    工業化と都市化が進む1880年代後半、科学の世紀に背を向けて、言葉で言いがたいもの、
    目には見えないものを追求し、想像力と夢の世界に沈潜する象徴派と呼ばれる芸術家が現れます。
    本章ではロップス、クノップフ、アンソールらをご紹介。
  • 《舞踏会の死神》フェリシアン・ロップス
    実物はもっと不気味です……

    カトリックの司祭がミサで着るガウンを身にまとった、死神として骸骨となった女が恍惚のダンスを舞っています。教会を風刺する本作は大型の画面に描かれており、作者の深い思い入れが感じられます。作者であるフェリシアン・ロップスは反カトリック的、反ブルジョワ的強迫観念をもっており、版画、挿絵を中心に、油彩画、水彩画、著述など様々な分野で才能を発揮しました。

    《舞踏会の死神》 1865-1875年頃 油彩、キャンバス
    フェリシアン・ロップス
    クレラー=ミュラー美術館 ©Kröller-Müller Museum, Otterlo

  • 《娼婦政治家》フェリシアン・ロップス
    猛烈な批判を受けた本作品が
    意味するのは……

    娼婦の女性と豚の足元には、彫刻、音楽、詩、絵画と書かれた擬人像があり、女性と豚はこれらの芸術を理解せずに踏みにじっています。《娼婦政治家》というタイトルが示す通り、作者は現代の政治家には私利私欲に目がくらみ、盲目となった者がいることをこの娼婦で表しており、メッセージ性の強い作品となっています。

    《娼婦政治家》 1896年 多色刷銅版画、紙
    フェリシアン・ロップス
    フェリシアン・ロップス美術館 ©Musée Félicien Rops

  • 《ゴルゴダの丘》ジェームズ・アンソール
    自らを受難のキリストと
    同一視した作品

    本作の図像は、ゴルゴダの丘で2人の罪人とともに十字架につけられたキリストを描く、宗教画の伝統的な約束事に基づいています。しかしよく見てみると十字架上部の罪標には「ENSOR(アンソール)」と記され、キリストの脇腹を刺す人物の槍には「FÉTIS(フェティス)」という美術批評家の名前の旗がついています。

    《ゴルゴダの丘》 1886年 黒チョーク・色鉛筆・油彩、板
    ジェームズ・アンソール
    個人蔵

  • 20世紀のシュルレアリスムから現代まで 20世紀のシュルレアリスムから現代まで

    現代に受け継がれた「奇想」の表現はオブジェ、音、インスタレーションへと領域を広げ、
    今もなお創造活動の豊かな源泉であり続けています。
    本章ではマグリットやデルヴォーらシュルレアリスムの芸術家たち、またヤン・ファーブルをはじめとする現代作家らの作品をご紹介。
  • 《ティンパニー》レオ・コーペルス
    奇妙?怖い?面白い?

    筆を咥えた骸骨が、ドラムにリズミカルに打ち付けられています。数多くの戦地となってきたベルギー芸術には死の表象が絶えず見え隠れします。この根深く厳粛な難題にユーモアで答えるコーペルスの表現は、ベルギーの芸術家が培ったアイデンティティの一つといえます。

    《ティンパニー》 2006-2010年 ミクストメディア
    レオ・コーペルス
    作家蔵 ©Leo Copers & SABAM / Photo: mARTine

  • 《2007-2014年、冬の日の古木》パトリック・ファン・カーケンベルグ
    創造で描かれた、堂々たる古木の姿

    本作は一見すると変哲のない老木のデッサンのように見えますが、作家が想像を自由にめぐらせて描いたものであり、この世のどこにも存在しない木になっています。作家はこのような古木を数多く描き、その幹にはしばしば扉や窓をとりつけています。

    《2007-2014年、冬の日の古木》 2007―2014年 鉛筆・絵具、紙
    パトリック・ファン・カーケンベルグ
    ゼノックス画廊 ©Patrick Van Caeckenbergh: courtesy Zeno X Gallery, Antwerp / Photo: Fotorama

  • 《生き残るには脳が足らない》トマス・ルルイ
    自身の体と理想に囚われてしまった
    人の哀しき姿

    古代ギリシャ時代から続けられてきた、理想の人体への飽くなき探求。それは、現代の過剰なモデル崇拝やダイエットの日常化にも現れていないでしょうか。傍目から見れば十分なほど持っているはずのものでもまだ飽き足らない姿、大きすぎる頭で自滅している現代の人間像を、本作品は物語っています。

    《生き残るには脳が足らない》 2009年 ブロンズ
    トマス・ルルイ
    ロドルフ・ヤンセン画廊 ©Studio Thomas Lerooy, Brussels, courtesy rodolphe janssen, Brussels / Photo: Philippe D, Hoeilaart